片側空けをすると輸送効率が下がる場合があります。これは、立ち止まって利用する人の割合が多い場合、片側が空いていてもそちらを選ばず、立ち止まる列に並んでしまうためです。
片側を空けた場合のエスカレーターのステップ数と利用者数(静止者・歩行者)のイメージ
静止して利用する場合、前の人から1ステップ空けると20ステップに片側10人乗れます。
一方、歩行して利用する場合、前の人から2〜4ステップ空けて乗るため、20ステップに片側約5.4人しか乗れません。
片側だけが極端に摩耗するような事象は起きていません。また、エスカレーターの部材は十分な強度と高い精度が求められ、建築基準法施行令によって細かく規定されています。子どもからお年寄りまで全ての人が利用する輸送機器として、正しくメンテナンスされていれば、毎日長時間、高負荷で動き続けても問題ないよう、頑丈に作られています。片側空けの問題は、安全性と輸送効率を阻害する点にあります。
定員という考え方はありません。利用者が前後左右隙間なく立った満員状態の荷重を100%としたとき、その半分である50%を最大負荷として設計されています*1*2*3。エスカレーターに設計を超える負荷がかかった場合は、安全装置が働いて急停止することがあります。
エスカレーターの構造は、建築基準法施行令第129条の12で次のように規定されています。(一部抜粋*4)
勾配 | 定格速度 | 備考 | |
---|---|---|---|
8度以下 | 50m/min以下 | 動く歩道 | |
8度を超え30度以下 | 15度以下で踏段が 水平でないもの |
45m/min以下 | |
15度以下で踏段が 水平なもの |
エスカレーター | ||
30度を超え35度以下 | 30m/min以下 |
輸送能力が高い二人乗りの方が一般的ですが、設置場所のスペースが確保できない場合や利用者の少ない場所では、一人乗りが採用・設置されています。
エスカレーターのステップの高さは、法令などによる明確な基準はなく、決まっていません。日立製エスカレーターでは、傾斜(勾配)が30度の場合は205mm、35度の場合は235mmとしています。
エスカレーターは、比較的シンプルな構造で動いており、上部乗降口の地下にモーターや駆動機を設置し、駆動機からステップを取り付けたステップチェーンに動力を伝えることで、ステップと手すり(ハンドレール)を同時に動かしてるタイプが一般的です。
エスカレーターの動く仕組みを分かりやすく解説しています。
エスカレーターの安全装置には、法令で定められたもの*7とメーカーが独自に設置するものがあります。
法令で設置が義務付けられている七つの安全装置の機能は、以下の通りです。
日立ビルシステムでは、このほかに、以下の独自の安全装置を搭載*8しています。
駆動鎖(チェーン)安全装置、ベルト切断検出安全装置、ステップ異常走行検出装置、ステップローラー剥離検出装置、安全ナイフスイッチ、電磁ブレーキ安全装置、調速機、コムプレート安全装置
一般の方であっても、エスカレーター利用者が転倒するなどの非常事態を目撃したときは、非常停止ボタンを迷わず押してください。非常停止の際は、他の利用者の転倒防止のため、ボタンを押す前に「手すり(ハンドレール)につかまってください!」と大きな声で知らせてください。
非常停止ボタンの位置は、メーカーや型式によって異なりますが、乗降口付近です。いたずら防止用にカバーが付いているものもありますが、慌てないで確実に押してください。
エスカレーターは建築基準法によって、おおむね6カ月から年に一度、国家資格保持者による検査を行い、その結果を特定行政庁*9に報告することが定められています。また、国土交通省による指針*10により、保守点検業者による使用頻度に応じた定期点検が推奨されています。
エスカレーターのメンテナンスには、安全装置や駆動部分の目視点検や、稼働時間に応じたブレーキの整備や摩耗する回転部の交換作業などがあります。日立ビルシステムでは、決まった手順により、計画的に点検、検査、試験、再調整などを行い、使用中での故障を未然に防止するために行う「予防保全」の考え方に基づき、エスカレーター1台ごとに個別のメンテナンス計画を策定しています。その際、技術者の五感による点検だけではなく、遠隔監視装置を取り付けて、微細な電流の乱れといった故障のシグナルを検知できる、遠隔保全の仕組みを導入しています。
JR・京急「川崎駅」前の商業施設「川崎モアーズ」に納められたエスカレーターは、ギネス世界記録™で認定された世界一の短さ。
ステップはわずか5段で、利用時間はたったの8秒、高低差は83.4cmというスーパーミニエスカレーターで「プチカレーター」の愛称で親しまれています。
1989年に日立が納入し、今もメンテナンスを請け負っています。
当時「エスカレーターに高さがなくて傾斜部分が短いので、ちゃんと設置できるのか?」「現地の搬入経路に寸法制限があるが、うまく搬入できるのか?」といった懸念がありましたが、「面白いから挑戦してみよう!」と関係者一丸となって取り組み、世界一短いエスカレーターとしてギネスに登録されたときには一同大いに喜びました。